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グレーシー柔術

― 1993年。


それは格闘技界にとって正にルネサンスの年だった。
K-1の第一回大会が開催され、アメリカでは初のUFCでホイス・グレーシーが優勝。
2回大会で大道塾の市原海樹がホイス・グレーシーに締め落とされた姿は衝撃的だった。

それは、それまで幻想だった「総合格闘技」が初めて白日の下に晒された瞬間でもあった。



あくまで私見だが、オレは総合格闘技の実戦性に正直「?」だ。
現実のストリートファイトに寝技はタブーだと言うのが持論。
総合格闘技は邪魔が入らない「1対1の勝負」で、「床がマット」であり、絶対に「相手が武器を所持していない」という条件の元でしか成り立たない。


自らグランドに引き込み、ガードポジションからじっくりと相手の隙を狙い三角締めを・・・・


・・・絶対他のヤツに蹴飛ばされるか、警察に捕まる(笑)。

そして床が弾力性のあるマットではなくアスファルトだった場合、サブミッションの攻防より先に「投げ」で勝負が決まるだろう。
あと、何を持っているか分からない相手に不用意に密着するのは危険だ。
やはり立って肘や膝などの短い打撃で処理し、とっとと走って逃げるのが一番リスクが少ない・・・ハズだ。

勿論試したことは無いが・・・。




それでも「競技」としての総合格闘技は奥が深くて面白い。
陸上で例えると、ボクシングは短距離走、総合はデカスロン(十種競技)と言える。
どの種目も万篇無くこなしつつ、戦略性を持って総合力で勝負せねばならない。
シンプルな競技に比べ、素質をStrategyでカバーし易く競技寿命も長い。

オレは四年間芦原空手を学んだが、館長が亡くなってのち芦原会館を離れた。
その後、着衣総合格闘技団体である大道塾へ。1993年の一連の出来事は少なからず影響している。
大道塾も極真会館から分かれた団体だが、前述の市原敗北後、ルール上投げ+寝技を認めた。
そして現在は空手の看板を下ろし着衣総合武道を標榜している。

四年間ほぼ「ソレしか」やってなかった為、打撃はまあいい。
だがオレは投げと寝技が全く出来なかった為、悶着するといつも寝技でやられた。
やられつつも思った。

― 総合は面白い。









1999年、オレはアメリカに赴任した。
当時、日本にグレーシー柔術の道場は無かったが、UFCの影響下、北米では幾つか道場が出来始めていた。
たまたまオレの家の傍にハウフ・グレーシーが道場を開いていた。
ハウフはヒクソンやホイスの従兄弟であり、ヘンゾやハイアンの兄にあたる。

いい機会だ。
俺は早速見学に行った。





当時、ハウフはブラジルから出てきて間も無かった。
彼の英語は「オレ並」に下手で、意思の疎通が上手く出来なかった・・・のだろう。
オレは「見学させてくれ」と言ったのに、ニコニコしながら胴衣を引っ張り出して来て、「やってみろ」と宣う。
止むを得まい。何時たりともオレは後ろを見せない。


― かかってこいや!






・・・だが出てきたのは女だった。





素人だと思って嘗めやがって・・・。
オレは相手を傷つけず格の違いを見せつけてやることにした。













― 30秒後。
オレは変形方羽締めでタップした・・・。


オレはその場で入門を決めた。



女性も一人二人いたが、殆どがアマレス上がりの猛者だった。
どいつもこいつも耳がカリフラワー。
オレも90kg近くあるが、オレより軽いのはハウフぐらいだった。
恐らくハウフは70kgそこそこだったのではないか?
練習後、ハウフは道場の全員とスパーリングを行うが、100kg超級の連中相手に毎回タップアウトを奪っていた。

とにかく皆凄い力だった。
大して技術が無くても胴衣を掴んだまま振り回され、まるで洗濯機の中に放り込まれたようになった。
上背が無くても、関節のデカさとかが日本人とは比較にならない。
細かい技術は全部パワーで持っていかれる。
自分の非力さを痛感した・・・。





皆、でかくてゴツイのだが、もう一つ共通項があった。

どいつもこいつもタトゥーだらけなのだ。

しかも道場内では「漢字」のタトゥーが大ブーム。
皆、上腕にビミョーな字体で「柔術」のタトゥーが入ってる・・・。
他にも「度胸」だの「武士」だの、これまたビミョーな単語のセレクションが。
一番びみょーなヤツは何を間違えたのか「焼魚」というタトゥーを入れていた。

何故かこいつにだけは負けても悔しくなかった。



道場の連中に「お前も誓いのタトゥーを」と言われたが、リーマン的にはそう簡単にご要望にお応えする訳にいかない。
いつしかオレは「Tattooless」と呼ばれるようになった。






しかしアメリカ土産が「寝技」というのも色気無い話だ・・・。

オレは忙しい。正直blogを書いているヒマは、無い。
by hidetoshi_ota | 2006-05-12 01:10 | 格闘技
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